パキスタン東部ラホール(Lahore)で、自分で選んだ相手と結婚した妊娠3か月の女性が裁判所前で親族らにれんがなどで殴られ殺された事件で、AFP の取材に応じた夫が28日、正義のため闘うと誓った。
現場には警察や司法関係者が大勢いたにもかかわらず、誰も助けてくれなかったと語っている。
この事件は、ラホールの高等裁判所の建物の外で27日、ファルザナ・パルビーン(Farzana Parveen)さん(25)が父親や兄弟、いとこら20人以上の集団に襲われ、れんがを投げ付けられるなどして殺害されたもの。当初の警察発表では氏名 が「ファルザナ・イクバル(Farzana Iqbal)」さんとされていた。
警察は父親の身柄を拘束したが、兄弟といとこの5人が現在も逃亡中だという。
ファルザナさんは、家族の意思に反して自ら選んだ男性、ムハンマド・イクバル(Muhammad Iqbal)さん(45)と結婚し、妊娠3か月だった。ファルザナさんの親族は、ムハンマドさんがファルザナさんを誘拐し結婚を強要したと訴えており、事 件当日ファルザナさんは夫の弁護側証人として出廷するため裁判所に向かう途中だった。
■警察も司法関係者も見ていただけ
パンジャブ(Punjab)州ジャランワラ(Jaranwala)でファルザナさんを埋葬した後、自宅でAFPの電話取材に応じたムハンマドさんは、「結婚したときから脅されていた。私たちは正義を要求する」と語った。
ムハンマドさんによると、夫妻は今月12日に行われた公判の際にも襲撃を受けたが、その時は無事だったという。
しかし27日は、「弁護士事務所から裁判所に向かっていたところ、30人ほどの集団が襲い掛かってきた。妻の父親や兄弟たち、いとこたちもいた」。ムハ ンマドさんたちには10人余りの関係者が同行していたが、突然の襲撃に驚いた人たちは散り散りに逃げて行ってしまったという。
「兄弟の1人が彼女(ファルザナさん)に向けて発砲したが、当たらなかった。続いて、襲撃してきた集団の中の女たちが彼女を押し倒し、それから兄弟たちと父親が彼女を殺してしまった」
「最もつらいのは、誰も妻を助けてくれなかったことだ。その場には警察官も、たくさんの法曹関係者も、一般市民たちもいた。でも、皆ただ見物人のように眺めているだけだった」
■とばっちり恐れ放置される「名誉殺人」、1年で869人被害
「裁判所には警官隊が常駐している。だが、なぜか事件発生時には現場におらず、被害者を保護したり襲撃者を阻止したりして事件を未然に防ぐことができな かった」と、著名な女性人権活動家のタヒラ・アブドラ(Tahira Abdullah)氏は指摘する。「警察が予期できた名誉殺人を放置した例は枚挙にいとまがない」
一方、男女同権運動家のサミナ・ラフマン(Samina Rehman)氏は次のように話す。「事件は大勢の人たちの目の前で起きたのに、誰1人介入しなかった。自分が村落裁判による公開処刑の対象になる可能性を恐れたためだ」
「人々が(名誉殺人について)はっきりと意見を主張しないのは、神を冒涜(ぼうとく)する行為だと言いがかりを付けられたり、反イスラム的との烙印(らくいん)を押されたりしたくないからだ」
人権団体「パキスタン人権委員会(Human Rights Commission of Pakistan)」によると、パキスタンでは2013年の1年間だけで、一族の名誉を汚したとして親族に殺害されるいわゆる「名誉殺人」で869人の女性が命を落としている。